会長挨拶

第2次世界大戦後の日本では、高等教育が急速に普及しました。私立大学は、その多くの部分を担ってまいりました。4年制の私立大学は、令和2年度(2020年度)には615校となり、日本の大学生の約8割の学生は、私立大学で学んでいることになります。また、数の上でも、私立大学は、日本の大学数の約8割を占めています。

日本私立大学連盟(以後「私大連と略称します」)は、日本の高等教育の大部分を担う私立大学の中でも、重要な役割を果たしてきました。私大連は、私立大学の発展と充実のために、「会員相互の協力によって、私立大学の権威と自由を保持し、大学の振興と向上を図り、学術文化の発展に貢献」することを目的として、昭和26年(1951年)に当時の私立大学24校によって設立されました。その後、昭和31年(1958年)には社団法人となり、平成24年(2012年)には一般社団法人に移行しました。令和3年(2021年)4月現在、125大学が私大連に加盟しております。私大連の加盟大学は、数の上では日本の私立大学総数の約2割に過ぎません。しかし、学生数ならびに事業活動収入の規模においては、約5割を占めております。私大連の存在は、日本の私立大学のあり方を考えるうえで、まことに大きな役割を果たしていると思います。

ここで、日本における私立大学の役割を振り返ってみたいと思います。第1に、日本の高度成長期における日本の経済力・産業力・科学技術力を支える人材の育成のため、高等教育の急速な拡大が急務であった時代において、日本の私立大学は、その役割を大きく果たし、多くの国民に高等教育を提供し、日本の高度成長を支える人材育成に貢献したといえます。第2に、多くの国民が持ってきた大学教育を受けたいと期待に応えたのが、私立大学の存在でした。第3に、それぞれの私立大学は、創立者が提唱した建学の精神を明確に持ち、多様性を受け入れる教育をしてきました。そうして今日の世界のニーズに合った教育を展開してきたといえるでしょう。

しかし、日本がGDPでアメリカ合衆国に次いで世界第2位となり、1980年代半ばに、自動車・電子機器・半導体などの競争でアメリカを抜いて、貿易戦争に勝つことで、日本は目標を失いました。日本が、どこに向かうべきか分からずに迷っている間に、世界は、急速にデジタル化に向かって動き出します。1990年まで、産業競争力で世界の第1位であった日本は、急速にその地位を低下させ、2019年には30位にまで、落ちています。

このような危機的状況において必要なことは、答えのない未知の問題に、果敢に挑戦できる人材の育成であろうと思います。2020年に発生した新型コロナウイルスによるパンデミックは、人類の誰一人答えを知らない未知の問題の典型的な例であります。このような未知の問題に、果敢に挑戦できる人材を育てられるのは、建学の精神を明確に持ち、多様な人材を受け入れてきた私立大学であろうと考えています。また、過去20年間、日本の高等教育の質の向上が叫ばれる中で、多くの私立大学は、たいへんな努力をして、教育プログラムの改善、教育環境の整備に向き合ってきました。その結果、近年の日本の私立大学における教育の質は、30年前、20年前に比べて、飛躍的に向上したと思います。

しかしながら、現在の世界は激変しており、日本の私立大学は、新たな局面を迎えています。日本における人口減少、ポスト・コロナ世界におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)とグローバル化の急速な進展への対応など、日本の私立大学が果たさねばならない人材育成の課題は、さらに重要なものになると思います。私大連の加盟大学が、これまで大学における教育改革を先導してきた実績を踏まえて、今後とも私大連の加盟大学が、これらの新しい課題に挑戦していく人材を育成する責務があると考える次第です。

そうした中で、現在の日本政府からの私立大学への財政的補助は、余りにも少ないと言えるでしょう。現在、国からの経常費補助金の補助割合は、各私立大学の支出の10%を下回っています。よく知られているように、日本は、高等教育に向けている国家予算の比率が、OECD諸国の中では最下位です。さらに、その国庫補助も、学生1人当たりでみると、国立大学への補助は、私立大学への補助の約13.5倍であるという格差が存在します。この不合理な格差の是正のためには、私立大学への経常費補助を国立大学の運営交付金並みに増加させることで、日本全体の高等教育への国庫補助を増やすことが望ましいと思います。そのくらい政府が高等教育の発展に注力しなくては、日本は高等教育の人材育成で、世界に大きく遅れをとります。
 このような課題解決の目標に向けて、日本私立大学連盟は、重要な役割を担っていると、認識しております。皆様のご協力のもと、共に問題の解決に向かってまいりたいと存じます。ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

一般社団法人日本私立大学連盟  
会長 田中愛治 (早稲田大学総長)

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