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令和4年度第2回学長会議「私立大学入試の今、そしてこれから」(1/17)開催報告

2023年03月22日

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【会員法人関係者のみ】

  
  
 
 
 
     開催概要
 
  テーマ 私立大学入試の今、そしてこれから
  開催日時 2023年1月17日(火)14:00~17:00
  開催場所 オンライン(Zoom)
  参加対象 学長会議登録者(私大連会員法人設置大学の学長等)
 ※副学長に該当する役職者の参加も可能。
 ※講演は、どなたでも傍聴可能。
  参加者数 86大学121名
   プログラム  講演「大学入学者選抜をめぐる最新の動き」
  平野 博紀 文部科学省高等教育局大学教育・入試課大学入試室長  
問題提起①「私立大学入試の課題と方向性」
  村田 治 日本私立大学連盟副会長・関西学院大学長
問題提起②「新しい時代に向けた私立大学入試」
  横山 晋一郎 日本経済新聞客員編集委員
グループ討議
[討議の柱]
  1.出題科目
  2.高校教育に及ぼす効果
  3.入試方法
  4.その他

開催要項

 
 
 
 専門家の先生方3名のご講演、そしてそれに続く討論会を通じまして、18歳人口の減少が私立大学にとっていかに大きな問題であるかを改めて実感した次第でございます。

 本会議が、文理横断教育というものが入試の中でどのように生かされ、教育の中にどのように反映されるべきなのかなど、入試とカリキュラムが連動することの必要性について改めて確認いただくとともに、皆様の入試に対する問題意識を明確化する機会となりましたら幸いです。
 

【学長会議幹事会委員 佐々木 重人(専修大学・大学長)】
 

 
 
 
 
     講演「大学入学者選抜をめぐる最新の動き」
 (平野 博紀 文部科学省高等教育局大学教育・入試課大学入試室長)
 

 文理横断・文理融合教育の意義については、中央教育審議会において長く指摘され続けています。知識や情報を組み合わせて新たな価値を創出できる人材、多様な他者と協働して社会における課題を発見・解決できる人材を育成するという観点で、文系の知識、理系の知識を身につけて、多面的な角度から課題にアプローチできる能力を涵養することは大学教育において非常に重要な課題になっています。

 このことを踏まえ、本日は大学入学者選抜と文理横断教育についてお話しさせていただきます。
 


 
     大学入学者選抜と文理横断教育
 

   3ポリシーの一体性
 

 入試だけが文理横断・文理融合に対応しても意味はありません。重要なのは、大学教育が文理横断・文理融合の観点に立ち、社会のニーズも踏まえながら、各大学の建学の精神、教育理念と整合する形でふさわしいカリキュラムを構築することです。

 各大学ではアドミッション・ポリシーを策定いただいておりますが、ディプロマ・ポリシーと結び付ける形でしっかりと作られていますでしょうか。歴史的な経緯としてアドミッション・ポリシーが先に制度化されたため、アドミッション・ポリシーを策定するのは入試委員会、ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーを策定するのは教学マネジメント委員会というように、異なる組織が別々に決めていたり、アドミッション・ポリシーとディプロマ・ポリシーがほとんど同じ内容であるといったケースも見受けられます。

 3ポリシーの一体性をしっかりと確保しながら、大学教育全体として整合ある形で文理横断・文理融合教育を進めていき、その一つのパーツとして入試がある点について、重ねてご理解、ご留意をいただきたいと考えております。

 

   高等学校における文理分断
 

 中央教育審議会の大学分科会大学振興部会で文理横断・文理融合教育の推進に向けた議論が行われています。その中で、中等教育の段階からしっかりと文理融合教育を受ける素地を確保することの重要性が指摘されています。

 人文・社会科学分野を専攻する学生が自然科学分野の学問を学ぶ場合に、理数系の基礎的な知識・理解が不足していることが課題となります。これには、初等・中等教育段階、特に高等学校教育における文理分断の状況や高大接続の改善を求める声が根強くあります。

 特に高等学校が、文系・理系を早期の段階で分けてしまい、特定の教科については十分学習しない傾向があるのではないかという指摘があります。一方で、大学入学者選抜のあり方が変わらなければ解消されない、文系学部の入試で3科目しか課さないことがそれを助長しているのではないかという指摘もあります。初等・中等教育段階の諸改革も踏まえた上で各大学が文理融合教育に取り組むためにも、入学者選抜の改善が必要とされています。
 

 

   文理分断からの脱却
 

 各大学が取り組むべき方向性として今議論されていることの一つ目は、「入学者受入れ方針」(アドミッション・ポリシー)を「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー)、「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)と一貫性・整合性のあるものとして定めることです。

 各大学の強みや独自性を発揮しながら文理横断・文理融合教育を行い、その教育を通してディプロマ・ポリシーに定めた目標を学生に達成させるためには、入学段階でどの程度のことを身につけていなければならいのか。このことを十分意識した上でアドミッション・ポリシーを定め、入試で課す科目を決めるという考え方が基本となります。

 逆に申し上げると、ディプロマ・ポリシーで非常に幅広いものを身につけると掲げていて、それに対応するカリキュラムも構築できたが、入試ではこれらに対応した内容を課していない場合、入学してから学生が苦労してしまう。また大学も、不足する知識を補うためにエネルギーを割かなければならないということもあり得るわけです。

 二つ目は、入学志願者の実態も踏まえつつ、適切な出題科目や入手方法のあり方について検討することです。

 アドミッション・ポリシーに掲げた内容すべてを入試で課すことが難しいケースもあるため、高等学校で教育することと大学の初年次教育やリメディアル教育で行うことの役割分担を意識することは必要です。ただあくまでも、ディプロマ・ポリシーをしっかりと踏まえて大学入学共通テストや個別学力検査を適切に課すことが原則です。

 

   教学マネジメント指針(追補)の作成
 

 現在、教学マネジメント指針の追補の作成について議論が進んでいます。教学マネジメントサイクルの確立を目指して、令和2年1月に教学マネジメント指針が策定されましたが、入試については十分な記載がありません。その後、令和3年7月に「大学入試のあり方に関する検討会議」の提言がまとまり、大学入試の目指すべき方向が整理されました。また教育未来創造会議においても、この教学マネジメント指針を改訂し、教学マネジメントサイクルに入試を取り込むことが提言されています。

 今後、大学分科会で追補作成に関する議論が開始される予定です。作成の方針としては、修業年限の中で教育活動に用いることができる学内の資源、学生の時間は有限であるため、ディプロマ・ポリシーの達成から入試までを逆算した上でアドミッション・ポリシーを策定する必要があることを教学マネジメント指針に盛り込むことです。この逆算の過程が入試科目の設定にも繋がるわけです。

 そのため、入試で闇雲に数学、理科を課せばよいという単純な話ではなく、文理融合・文理横断教育を大学が実施することを出発点として、そこから必要な入試科目を設定するということです。また、資格検定試験を用いる方法もあります。昨今では、英語の検定だけではなく数学検定のように学習段階別に分かれた級が設定された試験もありますので、こういったものを活用して評価に反映することも考えられます。

 その他の課題として、例えば入試の作問の考え方についても一定程度盛り込むことを想定しております。入試では、受験者の能力をしっかりと見極められるような問題を作ることが必要です。教育研究もある中で、そのような問題を作ることは困難である場合、例えば他大学と連携してお互いの過去問を再利用することも考えられます。また、教員以外のスタッフによる入試運営の補助や問題点検の外部委託などの負担軽減に関する事項や、大学が高等学校の実情を把握することを促す内容も考えたいと思います。

 教学マネジメント指針は各大学の取組を後押しするためのガイドラインですので、法的拘束力を有するものではありません。一方で、各大学に取組の充実を図っていただきたい最低限の内容を盛り込んでいます。今後の議論に注目いただければ幸いです。
 

 
     令和5年度大学入学者選抜
 

 令和5年度の大学入学共通テストは大きな問題なく終了しました。会場警備や感染症対策については大変な局面があったと思いますが、ご尽力いただいた大学の先生方に改めて感謝申し上げます。

 これから各大学の個別選抜が行われると思います。新型コロナウイルスが流行したここ数年は、追試への振替えの充実、大会や検定試験などの中止があった場合の努力プロセスの評価、調査書の出席日数の取扱いなどについて、十分留意いただくよう各大学にお願いしております。不正・安全対策につきましても、要項への明記や巡視などを実施し、関係機関と連携を取りながら行っていただきたいと思います。文部科学省からも、受験者に対しては不正とみなされることのないよう要項をしっかり確認すること、指導者に対してはネットに投稿された問題を安易に解答することのないよう注意喚起しています。

 「新型コロナウイルス感染症に対応した試験実施のガイドライン」については、既に各大学で対応いただいていると思います。特に無症状の濃厚接触者への対応として、濃厚接触者として特定されていない者は通常受験が可能ですが、特定された者については、無症状であれば別会場での受験が可能としております。ただし、公共交通機関は利用しないよう要請しています。万一、家族等による送迎が不可能な場合は、文部科学省がタクシーを手配します。相談窓口も設置しておりますので、受験者から相談があった場合はご案内いただくようお願いします。
 

 
     新学習指導要領に対応した令和7年度大学入学者選抜に係る予告
 

   入試変更の2年前周知
 

 令和4年度の春から、新学習指導要領施行後の最初の高校生が入学しております。大学入試の変更は2年前予告というルールをお願いしておりますので、個別学力検査、大学共通テストで課す内容を変更する場合には予告が必要です。

 現実的に高等学校で文理分けが行われている以上、3月頃の予告では既に文系・理系が決定している可能性があります。志望大学や学部に合わせた文理選択ができなかったということになりかねませんので、できる限り早期の周知をお願いします。
 

 

   障害者への合理的な配慮
 

 大学入学者選抜実施要項における令和7年度からの見直しについては既に予告がされています。前倒しで施行されている部分もありますが、まずは障害者への合理的配慮に触れたいと思います。

 「障害者差別解消法」の観点から、合理的配慮の充実を図っていくことが私立大学においても求められています。各大学には、入学志願者一人ひとりのニーズを踏まえた建設的な対話を行っていただきたいと思います。

 合理的配慮については、各大学が過重な負担を負うことのない範囲がメルクマールとなっておりますが、対応可能なことについてはぜひ受験生の立場になって考えていただきたいと思います。

 

   多様な背景を持った者を対象とする選抜
 

 極端な例ですが、同じ人間が100人いるゼミでディスカッションしても一つの意見しか出ないということになりかねないですし、研究においても新しいイノベーションを生み出すようなインスピレーションに乏しいと言えます。

 入試の公平性という観点はもちろんありますが、「新たな価値を創造するキャンパス」を実現するためには、多様性をもたらすことができる学生を対象にした選抜を行う可能性もあるのではないでしょうか。そのような選抜においては、入学志願者の努力のプロセス、意欲、目的、意識などを重視した評価を取り入れた選抜方法を考える必要があります。

 大学ごとに多様性をもたらしうる人材像は異なるはずです。例えば、女子枠の設定についても「理工学部に女子学生を増やしたいから、女子学生であれば誰でもOK」という単純な基準ではないはずです。入学後に発揮してほしい資質や能力を見極められる選抜方法を考える必要がありますので、ぜひ工夫を凝らしていただきたいと思います。また、単なる属性加算と捉えられてしまうことのないよう、選抜の趣旨や方法について、社会に対し合理的な説明を行うことも必要です。

 

   新旧課程履修者の混在
 

 大学入学共通テスト全体では、マークシート中においてもしっかりと思考力、判断力、表現力を問える問題を作問する方針です。実際に問題を見ていただくと、かなり多様な形で出題されていることがわかると思いますので、各大学の個別学力検査の作問をする際には、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

 また、各教科・科目に関する留意事項として、「情報Ⅰ」では大学入学共通テストにおける経過措置や各学校で開講している科目などについて、「地理歴史・公民」では選択できない科目の組み合わせについて、高等学校にも生徒に対する指導の充実をお願いしています。
 


 また令和7年度は、各大学の個別学力検査においても新課程の履修者と旧課程の履修者が混在します。そのため、両課程共通の内容を出題する、それが難しい場合には旧課程科目の選択を可能にするといった、旧課程履修者が不利にならないような配慮をぜひお願いしたいと思います。

 加えて新課程では、例えば「数学A」、「数学B」、「数学C」は項目を選択して履修するといった履修のルールが現行と異なります。その点をしっかり確認した上での作問をお願いしたいと思います。各大学でも広く情報提供を行い、受験者が混乱することのないよう入試要項等への明記をお願いします。

 私の説明は以上です。  

 
 
     問題提起①「私立大学入試の課題と方向性」
 (村田 治 日本私立大学連盟副会長・関西学院大学長)
 

 私立大学の入試にとって大きな課題は、文理横断教育への対応もさることながら、18歳人口の減少だと思います。さらに、高等学校の新教育課程で必修となり、令和7年度入試から追加される「情報Ⅰ」への対応も求められます。

 本日は、大学進学率等の推移を解説した上で、文理横断教育に対する国の動きや、これからの私立大学の入試の課題と方向性についてお話ししたいと思います。
 

     データで見る大学進学率等の推移
 

   18歳人口の増加と定員抑制
 

 1940年代に起きた第1次ベビーブームの影響により、1960年代には18歳人口が大きく増えました。その後減少した時期もありましたが、第2次ベビーブームによって再び増加するという流れを辿ります。大学進学率は、1975年あたりからほぼ横ばい、もしくは少し下がった時期があります。特徴として、大学進学率と18歳人口は反比例の関係で動いています。
 


 次に、定員超過率と大学入学者数を見ると、1974年頃の定員超過率は全国で約1.58倍、私立大学に限れば約1.8倍にも上りましたが、その翌年からは急激に定員超過率が低下し、大学進学者数もほぼ横ばいにまで減少します。

 このときどのような政策がとられたのかと言うと、当時の文部省(現 文部科学省)による大学定員抑制政策、いわゆる地方分散化政策です。第1次ベビーブームによる18歳人口の増加によって、1960年代後半頃から関東圏の大学を中心に定員超過が目立ってきました。1960年~1975年の定員超過は平均約1.5倍となり、現在も喫緊の課題となっている教育の質の低下が問題となりました。そこで文部省は、学生を地方の大学に分散させる政策をとりましたが、定員抑制と言っても、政策が実施されたのは関東圏の大学が中心で、地方はそれほど抑制されませんでした。

 現在も東京23区にある大学への一極集中が問題視されています。地方大学への入学を促すために定員が規制されており、過去と同じような政策がとられていることがわかります。

 

   私学振興助成法の制定と授業料の引き上げ
 

 定員抑制政策が実施されたのとほぼ同時期である1976年には、私学振興助成法に基づき私立大学の経常的経費への補助、いわゆる私学助成が開始されました。

 私学助成の背景には、物価や人件費の高騰による私立大学の経費増大がありました。また、大学教育への需要が急激に高まったことで、私立大学が多くの入学者を受け入れなければならなくなった結果、教育環境に国公立大学との格差が生じたことも要因の一つです。

 しかし、定員抑制によって私立大学の財政悪化が顕著になり、授業料の引き上げが行われました。これとほぼ同時期に国立大学の授業料も引き上げられています。

 

   臨時的定員増と大学教育の超過需要率の低下
 

 定員抑制政策によって、1975年には志願率と進学率の差が大きく開きましたが、その後の臨時的定員増により私立大学の定員は増加しました。なぜ、定員抑制が行われた後に臨時的定員増が行われたのでしょうか。

 それは、第2次ベビーブームによって再び18歳人口が増加したためです。臨時的定員増により大学進学率は上昇しましたが、志願者数を需要、入学者数を供給とした場合の超過需要率は低下しました。超過需要率が減るということは合格率が上がるわけですから、大学に入学しやすくなります。その後、私立大学の約5割は臨時定員をそのまま残し、結果的に定員増につながっていったわけです。

     文理分断教育の背景と国の動き
 

   IT人材の不足
 

 文理横断教育が求められる背景として、一つはIT人材の不足、もう一つは労働生産性の低迷が挙げられます。日本とアメリカにおけるICT投資の対GDP比率を見ると、決して日本のICT投資は不足していません。

 しかし、人材育成投資の対ICT投資比率を日本、アメリカ、ドイツで比べると、日本が7%強であるのに対し、アメリカは約80%、そしてドイツは約120%で、日本が極端に低いことがわかります。十分な人材育成投資が行われていないためにIT人材が不足していると言えます。

 「AI戦略2019」ではIT人材の確保に向け、ITリテラシーを身に付けた人材を大学生及び高専生では毎年50万人、社会人では毎年100万人輩出することを目標に掲げました。しかし、残念ながら教える人がいないというのが現状です。

 以上のことを踏まえ、IT人材育成に向けた高等学校の教育課程の改定が行われ、「情報Ⅰ」が必修科目となりました。特にAIは統計的な処理を行いますから、当然「数学Ⅲ」の学習内容を理解しなければなりません。IT人材を輩出していくためには、高等学校での情報、数学教育の強化が不可欠でしょう。

 アメリカは1990年代にIT革命を行い、生産性の向上に成功しました。一方、日本や多くのヨーロッパ諸国がIT革命に失敗した理由は、人材育成投資がうまくできなかったことにあります。AIはITの延長線上にあることから、世界中でAI化が進展しているまさに今が、労働生産性や国際競争力を高めることのできる最後のチャンスなのではないかと思います。そしてこの人材育成をどのように行うかが、日本の大きな課題になっているのではないかと思います。

 

   労働生産性の低迷
 

 2016年の日本の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)に加盟の36ヵ国中21位でした。2021年には23位まで順位を落としており、日本の労働生産性がどんどん低迷していることがわかります。

 労働生産性の成長率を考える上で重要になるのが、OECDによる国際学力テストPISAです。PISAは15歳を対象に、「読解力」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」の3分野を測ります。PISAの数学の成績と労働生産性成長率を見比べてみると、これらにプラスの相関関係があるとわかります。数学と理科のスコアを合わせた結果でも、同じような相関関係があります。

 教育未来創造会議が理工系人材の拡大を課題としていることも、先に述べたAIへの対応や労働生産性の向上が背景にあると言えます。2022年度補正予算では、主に私立大学を対象とした理工系分野への学部転換に対する支援として3,002億円もの予算が措置されています。すでに理工系学部の定員が約半数を占める国立大学のみでは対応が難しいため、ボリュームゾーンである私立大学での拡大を目指しているものと思われます。

 

   文理分断から文理融合へ
 

 PISAにおいて、日本は数学と理科どちらも高スコアです。2021年のデータを見ても、数学的リテラシー、科学的リテラシーともにOECD中で1位です。なぜ日本の労働生産性は低いのでしょうか。

 この理由は、高等学校段階で文系と理系に分かれてしまうことが考えられます。日本全体の文系と理系の割合は文系が78%、理系が22%と、文系が圧倒的に多いのが現状です。文理分断教育が行われることによって、労働生産性の向上やAIの人材育成につながらない。そこで今、「文理融合」が求められているのです。中等教育段階で理数教育がしっかり行われれば、高等教育でも理系人材の育成が行われ、最終的に理系研究者の増加につながります。

 経済成長の中で何が一番重要かと言うとR&D、つまり研究開発を行う人材の労働力における比率です。研究開発を行う研究者の大半は理系で、かつ大学院を修了したマスターです。つまり、理系人材と大学院を修了した人材を増やすことが、労働生産性を向上する基本的な策と言えます。
 

     私立大学の入試の課題と方向性
 

   情報科目の取扱い
 

 東京大学をはじめいくつかの大学により、大学入学共通テストで「情報Ⅰ」を必修化することが公表されています。しかし、政府が本気でIT人材の育成に取り組むのであれば、私立大学の人文・社会科学分野のボリュームゾーンをどう育成するのかが一番大きな課題です。そのためには理系学生はもちろん、文系学生も情報教育の大前提となっている「情報Ⅰ」をしっかり理解した上で大学に入学することが必要です。

 ただ、学生の「情報Ⅰ」の理解度を測るため、私立大学が令和7年度の個別入試で「情報Ⅰ」の試験問題を作成することは、人的資源の観点から間違いなく不可能だと思います。そのため、大学入学共通テストを活用するしかありません。

 共通テストを利用するのであれば、共通テストの実施時期を前倒しする必要があります。これができない限り日本のAI戦略はうまくいきません。このことは、文部科学省にしっかりとお願いしていきたいと思います。

 

   理系の増員
 

 デジタル・グリーンといった成長分野における課題は、理・工・農学分野の人材不足です。大学の理系志願者数を見ると、理・工・農学分野の志願者数の割合は全体で約25%、特に女性は約5%と極めて少ない数字で推移しています。理系を志望する女性の志願者数が20%程度まで上がってくれば全体として理系志願率の上昇が期待できますが、やはり根本的な問題である高等学校での文理分けを廃止しなければ、理系志願者数の増加は見込めません。

 いくら大学が理系の定員を増やしたとしても、高等学校で数学や理科をしっかりと勉強し、理解した学生が少なければ、大学での学びについていくことが困難な学生ばかりが入学してくるという状況もあり得ます。この点は文部科学省の高等教育局だけでは実現が難しく、初等中等教育局へも働きかけが必要だと思います。

 さらに言えば、ドイツでは高等学校での数学を必修化する話もあります。同じように日本も「数学Ⅲ」までの必修化に思い切って取り組まない限り、日本の未来は暗いのではないかというのが私の見方です。

 

   18歳人口の激減と定員未充足問題
 

 現在、修学支援新制度の見直しが行われようとしています。日本私立大学連盟からは、学生数が収容定員の80%を割っている大学については、制度の対象から外すべきではないかと提案しました。他団体はこのような趣旨の提案はしていません。

 私立大学では、学生数が収容定員の80%を割る状態が3年間続くと、財政的に苦しくなる傾向があります。実際48%の大学が定員割れしており、短期大学ではさらに大きな比率で70%以上が定員割れの状況にあります。入学後に修学支援新制度による支援を受けたものの、在学中や卒業後すぐに自身の通う大学がなくなってしまうような事態はやはり避けなければならない、というのが今回の提案の趣旨です。今後、文部科学省は大学経営へのモニタリングを強化するものと思われます。

 加えて、今後18歳人口は激減し、7年後、2029年の18歳人口は約107万人、現在から約4.7%減少すると見られています。他方、大学の廃校により、7年後には約5万人に相当する定員減が起こる可能性もあります。

 

   1975年と2022年
 

 先ほど、文部科学省が私立大学を主な対象として、理工系人材の育成に3,002億円の支援を行うという話をしましたが、これは私学振興助成法施行以来、約55年ぶりに行われる私立大学への大規模な支援です。また、1975年には地方分散化政策で関東圏の大学の定員を抑制しましたが、現在、東京23区でも同じように定員抑制が行われています。そして、恐らく修学支援新制度に関しても、定員抑制につながる政策が行われるのではないかと思われます。

 以上のことを踏まえると、私立大学を取り巻く現在の状況は、55年前の状況に似ているというのが個人的な見方です。ただ、大きく違う点として、1975年のときは第2次ベビーブームによる18歳人口の増加を受けて大学の収容定員も増加しましたが、現在は既に18歳人口が減少しており、他方、上で述べたように、約5万人の定員削減という状況になれば、大学の収容定員は18歳人口の減少率と同様の減少率を辿っていくことになるでしょう。

 

   都道府県別の進学要因
 

 別の観点として、都道府県別の進学率の要因に注目してみましょう。都道府県別の進学率を規定するものは何かと言うと、所得や授業料ではなく収容率です。大学の収容力が各都道府県別の進学率を決定しているということがほぼ定説としてわかっています。1975年頃の文部省の政策を振り返ってみても、定員をどうするかが進学率に大きく影響を及ぼしているのではないかと思います。

 冒頭でお話ししたとおり、大学進学率と18歳人口は反比例の関係にあります。18歳人口が減れば進学率は上がっていきますが、今後の予測通り18歳人口の減少率と大学の収容定員の減少率が同程度であれば、大学進学率がこのまま維持される可能性もあるのではないかと思います。

 

   私立大学の入試戦略
 

 今後、大学ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)や情報化等への大規模投資が不可避になってくるのではないかと思います。国立大学は交付金がありますが、私立大学は自前でDXや情報化投資を行わなければなりません。また、収容定員による定員管理もこれまで以上に厳しくなってくるのではないかと思います。そうすると、55年前の定員抑制政策の際に各私立大学が財政難を受けて授業料を引き上げたように、授業料引き上げの圧力が出てこざるを得ないのではないかと見ています。

 ここで重要になるのが授業料と志願者数の関係です。1年前の授業料と志願者数を全国平均で見ると、相関係数は0.867のプラスの値です。これは、授業料が上がると、1年後の志願者数が上がるという意味です。授業料を価格とみなした場合、授業料が上がると志願者数は下がると思いますが、そうではなく授業料、志願者数とも、特に1991年以降上がっています。したがって、授業料の引き上げによって志願者数が減少する可能性は極めて小さい。これが私立大学の授業料と志願者数の関係であると言えます。
 


 私立大学の入試戦略として、目前にある高等学校の指導要領の変更や、教育未来創造会議の提言である理工系人材の拡充等については対応していかなければいけません。しかし、最も考えるべきは18歳人口の減少です。少なくとも私は、授業料を上げたからといって志願者数にそれほど大きな影響は出ないのではないかと考えています。むしろ収容定員がどうなるのかによって、志願者数が変化するのだろうと思います。

 以上でございます。ありがとうございました。  

 
 
     問題提起②「新しい時代に向けた私立大学入試」
 (横山 晋一郎 日本経済新聞客員編集委員)
 

 本日いただいたテーマが「新しい時代に向けた私立大学入試」ということで、文部科学省の方や専門家の先生とは異なる視点から考えてみました。

 
     高大接続改革はなぜ頓挫したのか?
 

   高大接続改革の頓挫
 

 今年度で2回目となる大学入学共通テストが終了し、「今年は平穏に終わった」という印象を持たれているかもしれません。しかし、これまで高大接続改革を取材してきた立場からすると、「あれだけ大騒ぎをしたのにもかかわらず、際立った変革は見られないではないか」というのが正直な気持ちです。

 高大接続改革は、新しい時代に適応できる人材を育成するために高等学校、大学、そして入試を一体として行う教育改革です。大学入試センター試験は大学入学共通テストへ変更されましたが、結果として高大接続改革は矮小化してしまいました。

 高大接続改革のメニューとして、例えば「共通テストの複数回実施」、「民間企業が運営する英語4技能検定の利用」、「記述式問題の実施」といった取組が挙げられていました。これらが見送り、または矮小化した理由の一つには、高等学校からの反対が非常に強かったことがあるでしょう。

 しかし、高大接続改革が矮小化した最大の要因は、共通試験の性格が曖昧になったこと、そしてタイトな入試スケジュールにあるのではないかと思います。

 

   入試制度の変化
 

 そもそも共通試験は、1979年1月に共通一次試験が実施されたことが始まりです。当時は18歳人口の増加や大学進学率の上昇によって厳しい競争が生じ、「受験戦争」、「受験地獄」などと言われていました。大学は殺到する受験者を足切りするための策として、入試問題に難問奇問を出題していましたが、このような状況を解消するために生まれたのが共通一次試験です。

 ところがその後、共通一次試験は大学入試センター試験に変わり、さらにAO入試や推薦入試などのさまざまな選抜方法が登場し、当たり前だった筆記試験は今や少数派です。国公立大学ではまだ筆記試験が中心ですが、私立大学に筆記試験で入学する学生は、いまや約4割しかいないそうです。

 このように入試形態は変化していきましたが、共通試験と大学の個別学力検査がそれぞれどういう機能を持つべきかについては、ほとんど議論されてきませんでした。これは大きな問題ではないかと思います。

 
 

   タイトな入試スケジュール

 高大接続改革が失敗したもう一つの理由は、入試シーズンが短すぎることにあると思います。大学入試は1月半ばに大学入学共通テストが始まり、3月頃までがシーズンです。日本では、この2ヵ月ほどの短期間に、800もの大学で一万数千という膨大な入試が行われているそうです。

 これほど過密な入試が行われている理由は、私立大学の経営戦略が影響していると思います。つまり、学部や学科を多く設置すると、受験者には受験機会が増えるというメリットがあり、大学にはその分の受験料が入ります。そして、定員を増やせば大学の規模も拡大するという形で、入試が肥大化していったのが現状です。

 この短期間に共通試験を行い、さらには採点に時間を要する記述式の問題を取り入れるという高大接続改革での議論は、そもそも無理筋だったのではないかと思います。また、特に関西の私立大学は東京よりも入試シーズンが早く、大学入学共通テストは非常に使い勝手が悪いという状況もあります。

 こうした事情もあり、AO、推薦入試にますます重点を置くようになっている私立大学は、高大接続改革は国立大学のための改革だと無関心になり、議論が矮小化したと言えます。

 
     募集と選抜2つの視点に立った入試改革
 

   脱一般選抜時代の課題
 

 現在の私立大学の入試状況を例えると「脱一般選抜時代」です。この時代の入試において、私立大学は大学入学共通テストを入試にどのように位置付けるのか問われています。筆記試験には「1点刻みの選抜」、「古い学力観」といった批判があるように、点数主義の弊害があると思いますが、AO、推薦入試には、理想と現実に大きな差があるという課題を見過ごしてはいけません。

 AO、推薦入試には、「本人の適性を見極める丁寧な選抜」、「一般入試では見い出せない才能を見極める」といったことが理念としてありますが、実際には単なる学生獲得のための手段にすぎないのだと感じます。少子化にもかかわらず大学数は増えているため、学生が集まらず半数近くの私立大学は定員割れの状況です。そのため、入学のハードルを下げて、学生を獲得しようという動きがあるのではないでしょうか。

 ある高校では、さまざまな大学から用意された学校推薦枠が高等学校の在校生数を超えてしまったことがあるようです。また、先ほど高等学校での文理分断が問題だというお話がありましたが、そもそも一般入試を対象としない、AO、推薦入試を目指すコースを設置している高等学校もあるようです。高等学校も少子化の中でどのように生徒を集め、またそのために、いかに進学実績を上げるかに必死です。

 例えるなら、入試戦略は車の両輪です。右の車輪が選抜であれば、左の車輪は募集で、これらがうまく嚙み合うことで車は前に進むわけです。しかし、今は多くの大学が選抜機能を失い、募集に偏りすぎている印象を受けます。

 

   卒業証書の空洞化
 

 大学における教育内容等の改革状況に関する文部科学省の調査結果を見ると、高等学校の履修状況に配慮した取組、例えば補習などが行われている大学は、2020年度で65.9%、時には7割を超す場合もあるようです。

 高等学校での履修が不十分で、学修についていくことができない学生に大学が補習を行うこと自体は悪いことではありません。しかし、高等学校での学びが不十分であるならば、高等学校の教育課程修了者とはどういう意味なのか、そして大学の入学者選抜とは何なのかが問われます。

 最近は、小・中・高等学校、そして大学においても、習得すべき能力を身に付けさせずに児童・生徒・学生を卒業させてしまっている学校が多いと感じます。私はこの状況を「卒業証書の空洞化」と呼んでいますが、これは日本の学校教育の信頼性が著しく低下することを意味します。中央教育審議会などでは「教育の質保証」という言葉を用いて議論されていますが、もっとシンプルに考えた上で危機感を持つべきです。

 

   偏差値依存
 

 「脱一般選抜時代」におけるもう一つの課題は、偏差値依存から抜け出せるかどうかです。皮肉な話ですが、偏差値による大学の序列化は問題であると言いながらも、偏差値に最も依存しているのは、実は大学であり、高校の進路指導であると思います。実際、大学のアドミッション・ポリシーを見て志望校を決定する高校生はどれだけいるのでしょうか。

 偏差値依存の理由として、例えばA大学とB大学の法学部の違いが説明しにくい場合でも、「偏差値が0.1違う」と言ってしまえば説明しやすいわけです。ただ、一般入試の比率が低くなったことで偏差値体制は崩壊しつつあります。例えば、一般入試の定員を入学定員の半分程度に一応設定しておいて、試験問題の難易度を高くします。すると、合格のハードルが高くなって偏差値は上がります。つまり、偏差値を操作することは非常に簡単なのだと思います。偏差値は大学の難易度を全く表していないわけで、いよいよ大学をどのように選べばよいのかわからなくなります。

 一般入試比率の低下が大学選びに形骸化をもたらしていることから、今まで以上に、ブランドや知名度だけで大学を選ぶ状況になるのではないでしょうか。ブランドや知名度では他大学との差別化は難しい私立大学が大半であるため、募集と選抜という2つの観点から入試をどうすべきか考えることは、私立大学にとっての非常に大きな課題です。

 
     選抜の実質化に向けて
 

   私立大学のビジネスモデルの限界
 

 DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の人材育成を行うにあたり、文理分けが本当に良いのかということが議論されています。これは文系学部が多い私立大学にとって非常に大きな問題です。

 私立大学が高等教育の中でこれだけ比重を増やしてきたのには、いくつかの要素があると思います。例えば、国の財源により大学を設置することは骨が折れるので、企業人マインドを持つ経営者に大学設置を任せてしまったことがあるでしょう。また、授業料が高くても我が子をとにかく大学に入れたいという親の「大学信仰」も相まって、高等教育の普及率は家計の負担により高まったように思います。

 しかし、私立大学の多くは理系に比べてコストの安い文系であり、同じような学部や学科ばかりが多く設置されているのが現状です。より高度な人材の育成が求められる中、「安かろう悪かろう」といった大規模教育を行う私立大学のビジネスモデルは限界に来ているのではないかと思います。

 

   大学入学共通テストの活用
 

 私立大学の入試の方向性を考えるに当たってカギとなるのは、大学入学共通テストの活用でしょう。大学入学共通テストにより、高等学校卒業時に最低限身に付けておいて欲しい学力を確認した上で、各大学は時間に余裕を持ってアドミッション・ポリシーに沿った丁寧な選抜を行うことができます。

 そのためには、私大連も要望されていますが、12月または11月に大学入学共通テストを実施することで、共通テストと個別試験の間に今以上の時間を設けることが必要です。また、高大接続改革の当初には議論がありましたが、共通試験を年に複数回実施することや、レベルの異なる複数のテストを用意することも、私立大学全体として考えていいのではないでしょうか。

 大学入学共通テストの時期を前倒しするとなると、学校行事や教育課程への影響を理由として高等学校から必ず反対の声が上がります。しかし現実問題として、高校生の半数は一般入試以外で年内に大学進学を決めています。また、数としては少なくなりましたが、高等学校卒業後に就職する学生への採用試験の開始は9月ですから、大学入学共通テストだけを1月中旬に実施しなければならない根拠はないものと思われます。

 
     18歳人口77万人時代の衝撃
 

   18歳人口の減少
 

 中央教育審議会が2018年に出した「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」を見ると、2040年の18歳人口の推計値は88万人でした。一方、2022年の出生者数は過去最低の77万人で、初めて80万人を割りました。つまり、2040年の18歳人口は最大で77万人ということになります。推計では、77万人という水準は2056年に迎えるはずでしたが、発表からわずか4、5年で予測を大幅に下回ってしまったという現実があります。
 

※文部科学省作成資料より引用
 

 2000年以降の出生者数、婚姻数を見ると、2000年から2015年頃までの間は、年平均で1.1%ほどの減少率でした。しかしここ数年間では、3.5%ほどまで減少しており、さらに2022年の減少率は5.1%でした。このまま出生者数、婚姻数が減少していくと、さらに少子化が加速することは否めません。18年後と言うとかなり先のような気がしますが、大学が制度変更を行う際には5年、10年というスパンで取り組むことが必要ですから、明日、明後日のことだと思って18歳人口減少への対応を検討しなければ間に合いません。
 

 2022年の学校基本調査によると高等学校卒業者は99万人ですが、このうち大学への進学者は79万人で、内訳を見ると大学・短大が約59万人、専修学校が約20万人です。つまり、2040年の18歳人口が77万人ということは、2022年の進学者数にも及ばないということです。

 さらに、2022年度の過年度卒業者を含む大学・短大への進学率は過去最高の60.4%です。この母数は単年度当たりの高等学校卒業者ではないのですが、もし2040年の18歳人口77万人の60%が大学・短大に進学すれば、進学者数は約46万人になります。2022年の大学・短大進学者数である59万人と比較すると、12~13万人は進学者が減少するという計算になります。これは非常に危機的な状況です。しかし、どうも各大学は改革に一生懸命で、将来に対する危機感が乏しいのではないかと思います。

 

 

   大学入学者の規模別分布
 

 少し古いデータになりますが、大学入学者の規模別分布を見ると、日本にある約800の大学のうち入学定員が2,000人以上の大学の入学者定員を合計すると22万4,400人で、上位57校の大学だけで全体の4割を占めることになります。一方で、入学定員が1,000人未満の大学は合わせて577校ありますが、これらの入学定員を合わせても約20万人です。

 18歳人口の減少への対応を考える際に、市場原理に任せればよいという意見があります。しかし、18歳人口が77万人になる、すなわち進学者数が現在から12~13万人減少するということは、現在800校近くある大学のうち、規模が小さい方から約半数の学校が潰れたとしても到底追いつかない状況になるということです。

 これに対して、私立大学、さらには国公立大学含めた大学はどう対応するのか、非常に大きな問題であるはずですが、大学個別の問題ではないためか、取材の中では議論の進展が感じられません。新しい時代に向けた私立大学入試を考える際、18歳人口の減少は絶対避けて通れないというのが私の意見です。

 
     大学間の利害対立の鮮明化
 

 今後、いろいろな大学間の利害が対立してくると思います。そのような中、高等教育界としてこれからの時代をどう乗り越えていくのかを議論しなくてはなりません。具体的には、大学間の利害を調整した上で、社会や受験者の期待に応えられる大学システムをどう構築するべきかと、学生募集や定員規模、教育カリキュラムのあり方をどう設定するかです。

 ここで重要なことは、誰が利害調整役を担うのかということです。利害調整を市場原理に任せるのか、それとも国が強権を発動するのか、それとも大学側が自助努力して、何らかの解決策を議論して作っていくのか。そのような点が問われているだろうと思います。

 入試は、大学が社会に発する最大のメッセージだと思っています。つまり、私立大学入試をどうするのかということは、これからの大学像は何を目指すのかを考えることと同じです。学生獲得のための目先の入試改革ではなく、超少子化時代にふさわしい入試改革とはどうあるべきかについて、私立大学の自覚が問われているのではないでしょうか。

 僭越でございますが、以上が私の申し上げたいことです。どうもありがとうございました。

   
 
 

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