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「大学入試 ~私立大学の改革~」12月10日(土) 福岡大学

意見発表

1.伊東辰彦氏(国際基督教大学教養学部長)
2.沖 清豪氏(早稲田大学入試開発オフィス長、文学学術院教授)
3.黒瀨秀樹氏(福岡大学副学長)
コーディネーター 松本亮三氏(東海大学観光学部教授)

 入試改革は、大学改革の基幹をなす重要なテーマです。文部科学省の高大接続システム改革会議では、従来の大学入試センター試験に替えて「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の実施の検討が進行中。あわせて、個別大学の入学者選抜改革では、アドミッション・ポリシーに基づき知識・思考力・主体性などを多面的・総合的に評価することとされ、今後は「一般入試」「推薦入試」「AO入試」の在り方の見直しなどを通じた新しいルールづくりの検討も進められる予定です。「我々私立大学もその議論の動向を注視。従来の在り方を見直しながら、それぞれの大学にふさわしい改革を常に模索していきたい」(開会挨拶:福岡大学学長・山口政俊氏)との言葉に込められたとおり、今年度最後となる私立大学フォーラムでは、大学入試改革について、私立大学の事例を含め、入試改革の現状と問題点などについて意見発表およびディスカッションを通じて深い議論が交わされました。

意見発表1

「教育方針に合致した入学者選抜制度の実現」

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伊東辰彦氏
国際基督教大学教養学部長

“学び”とは生涯を通じた課題。
可能性は入試で途切れるべきものではない。
●多彩な選抜を用意し、リベラルアーツ教育を実践 大学改革の必要性は誰もが認識している。入試制度の改革ばかりに目がいきがちだが、そこに教育の方針や内容が伴っていなければ意味がない。秋田県の成功事例(国際教養大学)がよく取り上げられるが、それは以前からの長い取り組みの成果だ。また、グローバル人材育成の観点から、政府は国際バカロレア認定校(IB校)等を2018年までに200校設置する計画を掲げているが、そのための教員養成プランはあるのか?現場をきちんと見据えて施策を考えていかないと、一番の被害者は教育を受ける子供たちであることを肝に銘ずるべき。最も重要なことは、今後の日本の大学においてどのような教育を展開すべきなのかという議論だ。どのような教育を目指すのかという方針がはっきりしていなければ、それに相応しい入学者選抜はできない
 国際基督教大学(以下、ICU)では、3つの使命(国際性・キリスト教・学問)を果たすべく、リベラルアーツ教育、Critical Thinking(批判的思考)、少人数教育を実践。教職員・学生は『世界人権宣言』を理想として掲げることを宣言してきた。大学として3つのポリシー(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)を示しているが、これらが単なる抽象的な題目に終わらないよう、常に方向性を吟味精査し、それに相応しい内容を実行するために努力している。
 ひとつの学問領域にとらわれない物事の見方を養うことが、リベラルアーツ教育の重要な目標だ。そこでICUの一般入学試験においては、高校までの学習で蓄積した基礎知識に加えて、入学後のリベラルアーツ教育において必要とされる適性が試される。それが「総合教養 (ATLAS)」という独自の試験方法で、受け身の学習を超えて主体的に学ぶことができる学生を選抜する。具体的には、あるトピックについて15分程度の短い講義を聴き、それに関する教科横断的な設問に答えていく。大学での講義は聴くことを通しての理解が重要であり、その価値は今後も変わることがない。大学での講義と同じように、集中して聴くことの重要性が問われることになる。また、今後はより多様な言語背景、教育背景を持つ学生の増加が見込まれることから、十分な日本語能力を持ち、なおかつ自らの海外経験をリベラルアーツにおいていかし開花させる資質を持つ学生を広く求めるための「ユニヴァーサル入試」を実施している。

●自覚的に学修方針を決め、個々に学びを深める ICU入学後の学びは、まず1~2年次に英語科目(ELA)と30余のメジャー(専修分野)の基礎科目を各自選択して履修。3年進級時に興味のある分野を絞り込み、3~4年次には自身の専修分野について学びを深め、最終学年ではその集大成として自身で設定したテーマで卒業研究を行う「メジャー制」を採用している。しかも、学びをより実りあるものにするためには、自覚的に学修方針を決める「アカデミックプランニング」が不可欠だ。学生は国際関係学に一面的な思い込みがあるため、最初は特定メジャーに履修希望が殺到するが、あらゆる学問分野と深い関係があることを知るにつれてその後の意識が変化。卒業時には幅広いメジャーに分散していく。こうした学びの仕組みを、文系・理系を超え、「翼」を纏うための学び、と表現している。
 ICUの教育においては、伝統を理解しつつ新しい発想ができる人、その実現のために常に平和的な方法を模索する人を育てることが重要だ。対話を通じた共生の理解と仕組みの構築のために英語が必要であり、様々な学問分野の特徴や相互の関連性に通じているためにリベラルアーツ教育が必要なのだ。単なる勝ち負けでない世界の構築のために何が重要であるかを見抜く力が問われている
 そもそも大学入試とは教育の一環であり、学びは連続的に扱われるべき。そのために必要とされるのが高大連携や高大接続であり、学びの可能性は入試で途切れるべきものではない。学ぶことは、生涯を通しての課題のはずだ。こうしたことを踏まえると、結果としての合否とは無関係に、受験生個々が試験の場において個人として尊重され、公平に扱われたという記憶も重要ではないか。そのポリシーは、本来、大学ごとに明確にあるべきもので、受験者はそれを理解し、それぞれの大学に対して自分の適性を問うことが、入学者選抜に取り組む本来の目的である。そうした意味で、ICUの入試問題は、受けに来て良かった、読んで楽しかった、と受験生に思わせることに大きな価値を見い出そうとしている。

 

意見発表2

「私立大学でなぜ高大接続改革が必要なのか」-早稲田大学を参考にしつつ-

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沖 清豪氏
早稲田大学入試開発オフィス長、文学学術院教授

入試制度は大学から中等教育側へのメッセージ
そして、大きな変革を促す直接的・間接的手段に
●高大連携で21世紀型資質・能力を支える「学士力」養成を 高大接続改革の議論は、大学の多様化ではなく学生像の多様化からその本質を考えていく必要がある。学生像をマーチン・トロウの3類型で捉えると、20世紀前半までは自律・学術志向・指導性に富んだ「エリート型」が核をなしていた。しかし、大学が大衆化した20世紀後半以降は教育には半能動的な「マス型」と、教育に受動的な「ユニバーサル型」の割合・人数が増加している。今や学生は進学志向の少数派と就職志向の多数派に二極化。また、中等教育における教育課程の多様化により、学生の学力・社会観も多様化し、漠然とした危機意識はあるものの自ら踏み出せない学生が多数を占めている
 こうした状況に危機感を抱く高大接続システム改革会議は、「今後の社会がどのように変化していくのか誰も予見できない先行き不透明な時代にあっては、多様な人々と協力しながら主体性をもって人生を切り開いていく力が必要になる。また、知識の量だけでなく、混沌とした状況下で問題を発見し答えを生み出し、新たな価値を創造していく資質や能力が必要となる」と指摘し、21世紀型資質・能力の育成を求めている。
 21世紀型資質・能力の育成には「学士力」の獲得が必要だ。学士力とは、①知識・理解、②汎用的技能、③態度・志向性、④統合的な学習経験と創造的思考力の4つだが、専門教育でより深く磨く①や④と違って、②や③は共通教育・正課外活動でより広く養うべきもの。すべてを大学だけで育成することは不可能だ。基盤を高校で、発展を大学で担うという視点が重要となる。今回の改革が、高校教育と大学教育の一貫した改革であると言われる根拠はこうしたところにある。

●学生ファーストの視点から高大接続・連携の課題解決を 早稲田大学(以下、早大)は130年の歴史を持つ都市型大規模総合大学で、戦前は、アジアを中心に国際化。また、地方出身者比率が5割強を占めていたが、近年は関東出身者が7割を占めている。教育の特徴としては、履修学生数50人以下の授業が80%以上あり、学部設置以外の共通履修正課1800科目以上、学部設置を含めた共通履修3000科目以上と、学部の基礎・専門科目と学部を越えた共通科目群が充実。学生の満足度も90%以上と高い。教育改革についても、Tutorial English4名程度での英語学習、アクティブ・ラーニング型教室への転換、ラーニング・コモンズの充実、リーダーシップ開発プログラムなど、学部外部での多様な教育プログラム提供に注力している。
 こうした教育改善の支柱となっているのが「早稲田Vision 150」だ。その核心戦略1には、入試制度の抜本的改革が示されている。各学部・大学院が求める資質の学生を国内外から発掘し、積極的に獲得する方式を検討。世界各地域から、バランスよく多様な学生が入学し勉学に励む場の実現を目指す。その背景にあるのは、一般入試制度の妥当性・公平性の検証、学生の燃え尽き症候群に対応した選抜制度と入学後の教育の改革といった早大が抱える課題解決のための方策だ。現行の入試制度は、一般入試、センター利用入試、総合選抜型入試(自己推薦、AO方式等)、指定校推薦入試のほか、帰国生入試、外国学生入試などを実施しているが、入学者層の多様化を推進する方向で学力評価テスト導入の動向を注視。活用の可否を含めて多様な入試制度を検討し、2032年に一般・センター入学者比率を6割から4割にしたい。
 私立大学の入学者選抜の課題とジレンマについては、①入試改革(新テスト導入)に関する議論における(私立)大学「入試批判」、②高大接続改革の議論における私立大学としてのジレンマ、③高大接続改革におけるWashback機能の自覚・活用の3点に整理できる。
 入試改革に関するシステム改革会議の批判は、不十分な学力評価への不満、AO・推薦入試における「学力の3要素」軽視の改善要求だ。国立大学側からは、センター試験は5教科型で実施すべきとの批判、高校側からは、高校3年次1月以前の学力試験への批判と、高校3年間の学習成果全体評価の採用希望などがある。一方、私立大側としては、入学者選抜にどこまでリソースを投入すべきか、「学力の3要素」をどこまで大学が担うべきか、学力評価テストをどう位置づけるかなどがジレンマであり、常に論点となっている。
 改めて高大接続・連携の視点で大学の入試改革を考えると、入試制度は大学から中等教育機関へのメッセージであり、中等教育側の変革を促す直接的・間接的手段ともなる。例えば、英語4技能を新テストに導入すると、高校では英語を使った授業の増加につながる。それだけに、説明責任も重要だ。学習指導要領との密接な関連、中等教育との適切な連携・接続を図りながら、学生ファーストで私立大学ができることを考えていくことがすべての改革の原点ではないか。

 

意見発表3

「高大接続(教育接続)に向けた一つの試み」

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黒瀨秀樹氏
福岡大学副学長

大学教育の“質”の保証を第一目的に
3つの「高大接続」を積極的に推進・強化
●Activeな総合大学実現へ、グローバル人材教育を展開 1934年に創立された福岡大学は、9学部31学科、さらに、研究所、病院が集結する西日本有数の私立総合大学で、一つのキャンパスで多様な教育と行き届いた学生サービスが展開できる点が大きな特徴だ。「福岡大学ビジョン2014-2023」を掲げ、大きな視野と中長期的な視点で新たな成長戦略を策定。① 時代の要請や社会のニーズに対応した教育・研究・医療の提供、② 先進的で高度な研究活動の遂行、③ アジア諸国との関係を中心にして行うグローバル人材育成、④ 福岡を中心とする地域の活性化と発展の促進の4つの柱で実行してきた。なかでも、アジアの玄関口としての福岡の特性を重視し、アジア諸国との関係を中心にグローバル人材教育を展開。各国から優秀な留学生を積極的に受け入れ、日本人学生への刺激としている。
 入試制度については、学生の多様化に伴い、多様な入試制度で対応。一般入試、センタープラス型入試、大学入試センター試験利用入試、推薦入試(A方式・B方式)、AO入試、附属推薦入試、指定校推薦制度などを用意している。九州・山口県の志願者・合格者が圧倒的に多く、福岡県の就職者数も約4割を占め、まさに地域に立脚した大学だ。
 入試の課題としては、①「Active福岡大学」実現のための学力の高い・活力ある学生の確保、②「学力の3要素」の的確評価による高大接続改革への対応、③入学定員超過率厳格化(1<超過率<1.05)への対応が挙げられる。また、入試に関する改善点としては、2017年度入試より、センター試験を利用する入試制度に英語の資格・検定試験を活用するほか、入試前予約型給付奨学金「七隈の杜」の導入、インターネット出願の実施がある。

●高大一貫教育プログラムでキャリアデザインを支援 少数科目による入学試験や、多様な入学制度の導入に伴う合格決定の早期化などによって、大学自身が本来の高校教育を歪める事態を惹き起こしてきた。その反省から、福岡大学では、大学教育の“質”の保証を第一の目的とし、2007年から高等学校との間で「高大連携」「高大接続(教育接続)」「高大一貫」の取り組みを推進・強化している。
 「高大連携」は、緩やかな接続で、高等学校への出張授業等によって高校生の進路選択に役立つ情報を提供するなど、高等教育機関への進学意欲の効用を図ると共に、地域の知的基盤の形成に資するもの。それを一歩進めたのが「高大接続(教育接続)」だ。高等学校の教育課程における問題点を改善して本来の高校教育を実現。大学教育との接点を強化することで進学後の教育成果を向上させ、社会が求める大学教育の“質”の保証を担保する。
 2009年には、九州女子高等学校を附属高校(附属若葉高等学校)とすることに伴い、「高大一貫教育」を目指す試みを開始した。その考え方は、高等学校において本来あるべき高等学校教育の姿に立ち返り、後期中等教育の目的と目標達成に向けて努力するというもの。大学入試に特化した教育指導や偏差値中心の進学指導等を廃し、生徒一人ひとりが自分自身のキャリア・プランを考えながら、実りある高校生活を送ることができるようにする。福岡大学の「全人教育」の理念に則り、知識だけではなく、多くの人々と共生・協働するためのコミュニケーション能力や社会性をはじめ、社会の一員として行動できる能力を養成する。「福大コース」においては、附属高校のメリットを最大限に活用した高大一貫教育プログラムを実施。多彩な福岡大学出張講義のほか、1年次より興味のあるテーマを自ら選び、本格的なレポートを作成する課題研究に取り組み、発表会では大学教授が直接講評する指導も行い、キャリアデザインをサポートする。また、3年間の修学履歴は「若葉フォリオ」に記録され、一貫教育委員会が高校在学時代のパフォーマンスを総合的に審査する。今年、1期生が大学4年生となったが、進級するほどに平均値より高い成績を修めており、一貫教育の成果が現れ始めている。
 今後は、附属若葉高校との一貫教育をモデルに、複数の高校(指定校)との高大接続(教育接続)を進め、一貫教育の多様な評価方法の一部は一般入試への導入も検討している。こうした取り組みを通じて、タフでアクティブな学生を育成し、地域を支え、活性化する人材として輩出できる「Active福岡大学」を実現させていきたい。

 

パネルディスカッション

要旨抜粋

・伊東辰彦氏(国際基督教大学教養学部長)
・沖 清豪氏(早稲田大学入試開発オフィス長、文学学術院教授)
・黒瀨秀樹氏(福岡大学副学長)
・松本亮三氏(コーディネーター:東海大学観光学部教授)

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●大学改革を巡る昨今の主要な動き 2013年10月、第2次安倍内閣の私的諮問機関である教育再生実行会議は『高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について』を提言(第四次提言)。改革の一環として、高等学校段階における学習の達成度を把握し、高等学校の指導改善や大学入学者選抜に活用する新たなテスト(達成度テスト)導入の必要性を指摘している。しかも、こうした評価は1点刻みでなく、段階別評価にすべき、大学入学者選抜は複数回実施した方が良いといった内容に言及している。
 2015年1月、文部科学省は、中央教育審議会答申『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について』を受けて、「高大接続改革実行プラン」を策定し、高大接続システム改革会議(沖、松本両氏も参加)を設置した。ここで具体策が検討され、2016年3月には最終報告を取りまとめた。そこには、大学入試センター試験に替えて、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」と「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の国レベルで2種類のテスト導入が示されている。続いて、高大接続改革や大学個別の入学試験改革に対する新たなルール策定などを検討する作業グループを新たに設置。その中の大学入学希望者学力評価テストの検討準備グループは、2017年初頭に実施方針を策定し、3か年にわたるプレテストおよび2020年からは本テストが実施される予定だ。
 2022年度以降には、学習指導要領の大幅改定が予定されている。高等学校については大学入試の抜本的改革を視野に、地歴や理数などの分野での新科目設置、アクティブラーニング導入等を含む大幅改定が実施される見通しだ。このように変化が激しい状況に直面して、私立大学はどのように対応していくべきか。(松本氏)

1)高大一貫教育の成功に必要な要因とは? 学生は高校入学時から前向きな意欲を持っている。「大学で何ができるか」を具体的にイメージできるような取り組み、意識づけが成果につながっているのではないか。(黒瀨氏)
 早稲田大学には附属高校が2校あるが、教育面において高校と大学の緊密な連携は難しい。唯一成果が認められるのは、推薦入学者に技能試験を徹底させた点だろう。(沖氏)
 附属校ではないがICUハイスクールとの連携がある。大学から出向く出前授業は難しいが、ICUの授業を直接体験してもらう取り組みは好評だ。(伊東氏)
 高校と大学の責任ある協働がますます重要になってくるのではないか。(松本氏)

2)新テスト導入についてどう考えるか、その対応は? ICUではセンター入試を10年間利用していたが、地方の認知度アップという当初の目標が達成できなかったし、学内での労力の負担も大きかったため、途中で見直した。新テストについてもどういう形で世に出るかで、現在は様子見だ。(伊東氏)
 新テストについては、導入の仕方をどうするかという私学全体の話だ。大学入試センターの方である程度採点ができるというのであれば、積極的に利用しないという理由はない。ただ、国語は大丈夫だとしても、早稲田大学だけでも8000人分近くある数学の記述採点は難しいだろう。私立大学の多様性を鑑み、アラカルト方式を一部維持してほしいと文部科学省にお願いし、ある程度の手ごたえを感じている。ただ、時間がないので、議論そのものは各大学で始めておくべきだ。(沖氏)
 福岡大学としても、従来のセンター試験とかけ離れた複数回受験・記述式という方式では厳しい。ただ、新テストの記述が80文字程度のものなら、センター試験の代替として多様な学生を受け入れる入口という視点では意義があるのではないか。(黒瀨氏)

3)記述式・論述式の導入は、すなわち、思考力・判断力・表現力を判断するということになるが、この部分は大学が個別に判断すれば良いことではないのか? そもそも学力だけでなく、思考力等がないと解けないような問題をこれまでも一般入試の中で出題してきた。極論すれば、出願書類の段階でも受験生の思考力等のレベルを判断することはある程度できる。測り方は各大学で相当工夫が必要だろう。新テストの使用や配点についても、ある程度大学に任せてほしい。(沖氏)
 記述式を採用すれば思考力が分かるというのは短絡的だ。ICUではATLASを導入しているが、最近はAO入試でもディスカッションの内容をまとめる力を判断するために短い文章を書かせるやり方を実施している。(伊東氏)

4)主体性・協働性を大学入試で評価対象とすることには無理はないか? 知識や技能以外の要素もみるという点では参考になるかもしれないが、合否判定の直接対象とすることには無理がある。ただ、入学後の学生指導の指標としては活用できる部分はあるのではないか。(沖氏)
 附属若葉高等学校では、学修状況の継続性を確認するためにポートフォリオ(若葉フォリオ)を1年次からつけている。入試で主体性を評価対象として判断するのは間違いだが、新入生の多様性を確保しようと思えば、主体性をはかって、一部を大学に入学させるというやり方も私立大学としての考え方である。(黒瀨氏)
 面接や作文の導入は受験者数が多い一般大学の入試では厳しいのではないか。(伊東氏)

5)入試で「学力の3要素」を測定できたとして、大学でそれをどう伸ばしていくのか? どこの大学でも「これまでの改革で本当にいいのか?」と常に問いながら改革を進めている。早稲田大学でも高等教育の研究やIRを行う大学総合研究センターを立ち上げ、現状分析を実施。例えば、学内では授業改善(FD)を中心に見直しを図るような試みを行っているし、大学の枠を超えた改善も色々ある。(沖氏)

6)学力低下に対してこれまではリメディアル教育が行われてきたが、大学生に対してリメディアル教育が行われる時代も来るのか? リメディアル教育をどう定義するかによって違う。従来は高校時代に習得しておくべき知識や技能の補てんとして発達してきた経緯がある。いずれにせよ、高校までと大学とで学習の仕方が全く変わる大学1年次にミスマッチが起こりやすい。大学では主体的に、しかも、答えのない問題を考えていかなければならないこともあるため、学び方の変化や生活の変化に対する支援を行ったり、将来のキャリア設計のアドバイスまで行うようなことに早くから取り組んでいる。(沖氏)

7)教育改革において、国は高校と大学の双方向に対してアクティブラーニングの取り組みを強調している。大学はこれにどう対応していくのか? アクティブラーニング導入を推奨する制度を検討している。対応設備を備えた可動式教室もまだ足りない。ただ、導入や実施にはかなりの手間やエネルギーがかかり、教員の研究活動にも負担になりかねないため、その辺のサポートも必要だろう。(黒瀨氏)
 早稲田大学では、施設を拡充したり、教室を少人数制対応の規模に変えたりしている。教員と学生、学生同士の活用だけでなく、例えば、職員研修の一環としてアクティブラーニングの活用も計画中だ。(沖氏)
 アクティブラーニングに決まった教科書があるわけではない。むしろ、人間同士の対話の中で、柔軟な感性が醸し出されていくことが重要なのではないか。(伊東氏)

8)大学教育の“質”を保ちながら研究とのバランスは図れるのか? 教育と研究は両輪だ。時間的にも労力的にも厳しくなってくるのは事実だが、研究休暇を大学できちんと確保するようなことがあれば、バランスは保てるのではないか。また、学生も一緒に研究をしているという認識を教員が持つことも大事だ。(伊東氏)
 福岡大学はユニバーサル型学生も少なくないため、教育にもそれなりの負担がないと、納得できる教育成果は得られないのではないか。大学の使命として、教育と研究と社会貢献、本学でいえば、地域貢献も大きな比重を占める。こうした教員の多様な活動をトータルで評価できるような仕組みを整備していくことも大事ではないか。(黒瀨氏)

9)職業大学をどう捉えるか? そもそも、職業資格などをどのような成果としてみるかということがある。世界的な文脈では、職業資格と学業の資格は基本的に同じ枠組みだ。ただ、日本だけ独自に発展してきたため、そのまま職業大学をつくると、従来の専門学校の資格と同格になってしまいかねない。もうひとつの問題として、大学と名の付く教育機関は、何を目的にすべきなのか。これまで日本ではアカデミックに寄りすぎてきたような印象がある。欧米では卒業した時に職業に就くためのスキルを身に付けるというようなことも行っている。学生に大学で何のスキルを修得させるのか。まさに3つのポリシーのバランスに関わってくる。(沖氏)

 

まとめにかえて(松本氏)

 今回の入試改革、大学改革というテーマは我々にとって非常に身近な問題だが、実に難しい問題でもある。ゆえに、日々、現状、実情に目を行き渡らせながら、考え続けなければいけない。国が色々な形で発言し、会議を開き、政策を決めようとしているが、必ずしもそれが私立大学、ひいては、学生にとって適切な内容かどうかは分からない。私立大学連盟としても、できるだけ風通しの良い形で大学改革が進められるよう、各方面から英知を結集しながら常に意見を発信していきたい。